プロボクシングWBC世界バンタム級タイトルマッチ。
山中慎介7度目の防衛戦、具志堅の持つ6連続KO防衛に並ぶ期待もかかります。
試合前盛んにロープに手をやりながら屈伸を繰り返す山中選手の表情にいつになく緊張の色が見てとれました。
脳裏をよぎった不安がいきなり1Rに的中してしまいます。
試合が始まるやスリヤンが前に出てきて右を伸ばすとこれが山中の顔面にヒット。
手応えを感じたスリヤンは身体をひねりながら、がむしゃらに前に出てきてパンチを繰り出します。
ノーモーションで右を連続3発放って左も打ち込んでくるなど変則的な攻撃を繰り広げます。
山中これに対応できず、何発かパンチをもらってしまうという今までにない展開。
最近の試合では山中が冷静に自分の距離で相手をロックオンし、いつでもパンチを出せる体制で優位に立つんですが、今日は全く様相が違います。
しゃにむにスリヤンが前に出てきながら左右のパンチを出してくるので、山中は下がるしかなくパンチも浴びてしまうのでとにかく印象が悪い。
クリンチになっても、必ずスリヤンは山中の脇腹や頭に細かいパンチをボコボコと当て続けます。
レフェリーが二人を分けるまでしつこく打ち続ける徹底ぶりで、効かないまでも執念を感じる攻撃です。
4Rになってようやく山中の距離で左が当たるようになってきましたが、WBCルールの途中採点でスリヤンにリードを許すことになり、スリヤンにさらに元気を与えてしまいます。
5R以降もスリヤンは頭を下げながら前へ前へでてパンチを出してくるので山中も思うように相手にアジャストできません。
それでも徐々に山中もペースをつかみ、ようやく落ち着いて見られる状況になってきました。
スリヤンの攻撃があまりに印象強いので目立ちませんが、山中もここ数試合課題であった右をかなり意識して使うようになっていて、右を当ててから必殺の左というパターンを実践しようとしているのがわかりました。
そして迎えた7R、ついに神の左がさく裂します。
テンプルを打ち抜くとスリヤン後方によろめきながらロープ際にダウン!
強烈なパンチで決まったか!と思いました。
ところがレフェリーのカウントがめっちゃ遅い。
山中がコーナーから出てきたのをレフェリーが制止するのは仕方がないとしてなかなかカウントを再開せず、思わずテレビ前でレフェリーに「何やっとンじゃ!」って叫んでしまいました。
普通ならここで一気に山中が試合を決めに行く展開ですが、8Rもスリヤンは前に出る事を止めません。
しかも山中は不用意にも右フックを当てらてしまいます。
これがかなり効いた感じでクリンチで逃れますが肝を冷やしました。
それにしてもスリヤン恐るべき闘争心です。
しかし基本的にはスリヤンの突進に対して対応出来るようになった山中はこの8Rも終盤右を当てて左を放つとスリヤン後ろ向きに転がってダウン。
もう誰の目にも山中優勢は明らかです。
9Rになると、スリヤンも目に見えてダメージが蓄積されてきて、前に出てくるのは相変わらずですが足がついてこない状態に陥ってました。
山中はここぞと攻撃を加え、スリヤン再びダウン。
さすがにこれで立てないかと思うと、カウント9で跳ね上がるように立ち上がり、再び前に出てきます。
どう考えても、どう見ても効いているはずなのに立って前に出てくる。
さすがKO負けを喫した事がないだけのことはあります。
タフという言葉だけでは説明できない執念を感じます。
さすがの山中も3度強烈なダウンを奪いながら立ちあがってくるスリヤンに精神的疲れが出たのか、この後相手のクリンチに付き合う場面が多くなってしまいます。
このクリンチでも相変わらずスリヤンはボコボコとパンチを当てて、離れ際にフックを山中の頭部に当てにきます。
とにかくしつこい。
10R、11Rとこういった場面が多くなり、山中もこれに付き合うので私は拳を痛めてしまったのかと思った程でした。
そして迎えた最終ラウンド。
判定では勝ち目がないスリヤンは最後の力を振り絞り突進してきます。
予想された動きですが、それにしても恐るべきタフな選手です。
山中これを凌いでパンチを放ちますが、流れの中でスリヤン捨て身の右をもらってしまい、これがかなり効いたパンチでちょっと驚きました。
しかしもう試合のすう勢は決しており、山中落ち着いてその後をカバー。
最後は左をスリヤンに浴びせたところで試合終了。
KOは成りませんでしたが見事7度目の防衛に成功しました。
序盤、完全に相手のペースとなってしまい、自分のボクシングが出来なかった(させてもらえなかった)山中。
タフで人並み外れた闘争心を持ち、山中を研究しつくしてこの試合に臨んできたスリヤン。
バンタム転向以来17連勝中という勢いもあってかなり難しい相手でした。
しかし山中はこの難敵に4R以降は基本的に優位に立ち、途中持ち味である神の左でスリヤンを初のKO負け寸前まで追い詰めたのはさすがだと思いました。
終盤疲れてフルラウンドは戦えなくなったスリヤンのクリンチに付き合う場面は、KOを期待する者には物足りなく映るでしょうが、下手に打ちあって不用意に相手のパンチをもらい逆転KO負けを喫してしまえば元も子もありませんので逆に時間稼ぎになったと言えるでしょう。
山中も無理を避けたんだと思います。
多少物足りない部分はありますが、まずは文句のつけようのない誰が見ても明らかな勝利。
指名試合をクリアして、さあ、いよいよ山中が望むビッグマッチ、統一戦への実現に向けて交渉が始まるのか。
今が旬の山中慎介。
マッチメイクに期待しましょう!
山中慎介 24戦22勝(17KO)2分
スリヤン・ソールビンサイ 44戦37勝(16KO)6敗1分