最強の挑戦者アンセルモ・モレノを迎えて行われたWBC世界バンタム級タイトルマッチ。結果は王者山中慎介選手が僅差の判定で9度目の防衛を果しましたが、最後の最後までどちらが勝ったのかわからない状況。オープンスコアリングシステムがかつてないほど両者の戦い方に影響を与えたように感じたこの試合を振り返ります。
聞くと山中選手はかつてないほど絶好調で試合に臨めているとのこと。
この情報を聞いた時に少しいやな予感はありました。
自分で調子が良いと思えば思うほど、落とし穴もまたその口径を大きくしていくことは過去の歴史が証明しています。
しかし思いのほか慎重な立ち上がりの山中選手。
元々終盤に強い選手ですが、強引に左を打っていくのでもなく、かといって右のジャブもそれほど繰り出さない。
やはりモレノへの警戒心がそうさせているのでしょうか。
それに対してモレノは右のジャブを伸ばしながら、2発目3発目のパンチを繰り出してきます。
最初の4Rはモレノが右ジャブを中心に手数は山中選手より上回りました。
ただ山中選手も時折鋭いパンチを顔面よりも、どちらかというとボディ中心に当てていく作戦のようでした。
ここで最初の公開採点です。
私はここまで共に2ラウンドずつ失ってイーブンという見方でしたが、結果は2者が2ポイント差で山中、1者がイーブンでした。
2ポイント差ということは山中選手が3ラウンド取ったことになります。
この瞬間にモレノのジャブが思った程評価されておらず、山中選手のパンチ力がジャッジには良い印象なんだと思って山中選手の勝利を確信したんです。
山中選手と言えど、モレノを倒すのは簡単ではありません。
判定にもつれ込む可能性はかなり高い。
そうなると試合巧者のモレノが有利と感じていました。
その心配が4Rの採点を見て払しょくされたんです・・・ところが。
採点でリードを許したモレノは前の4Rよりやや攻撃的になってきました。
しかしそうなると山中もパンチを当てやすくなります。
確かに5Rから8Rまでモレノもジャブをよく当てていましたが、山中選手の繰り出すパンチの印象がそれを上回っていると確信して、ここでまた差を広げることが出来たと思ってました。
確かにモレノのディフェンスは評判通りでした。
何しろ全く正面からパンチをもらいません。
顔面へのパンチはほとんど寸前でかわすか、もらってもほとんど半身の状態です。
ですが、顔がだめならと山中選手はボディーにパンチをヒットさせていたように見えました。
ところが8R後の公開採点を聞いてびっくりしました。
ひとりが2ポイント差でモレノ。
後の二人はイーブン。
これだと5回から8回までの4Rは3人とも3ラウンドモレノが取ったという事になります。
えっ!ほんま!
この採点結果になるなら4Rまでのスコアは3人ともイーブンが相当だったのではと思って訳がわからなくなりました。
ただ後で聞くと山中もここはモレノが出てきて苦戦したと語っていたので冷静さは失ってなかったのでしょう。
この結果を受けて俄然元気になったモレノと、攻めるしかない山中。
ここからケンカファイトの幕開けとなったのです。
まず9Rモレノが山中の左を空に切らせ、返す右を物の見事に山中の顔面にヒットさせます。
まともにもらってしまった山中。
完全に効いています。
一気に攻勢に出るモレノ。
山中王者に就いて以降最大のピンチ。
見てて声が出ませんでした。
何とかこのラウンドを凌いだ時の場内の何とも言えないどよめきは忘れられません。
そして迎えた運命の第10ラウンド。
山中が反撃に出ます。
観衆の大声援が後押しします。
技術を越えた気持ちのパンチがモレノを捉えます。
モレノ効いた!
攻勢を止めない山中は打ちおろしの左を3発、4発。
もう当たろうが当たるまいが振り回します。
勝利への執念というかケンカに負けてたまるかって感じです。
9Rの劣勢を完全に挽回する起死回生のラウンドとなりました。
結果的にはこの10Rの攻勢が物を言いましたね。
11Rはまた微妙なラウンド。
山中のパンチをモレノは全て半身で受けるので、そのままクリンチになってしまいラウンドの半分はクリンチって感じでどちらが取ったか全くわかりません。
いよいよ最終ラウンド。
このラウンドを明確に取った方が勝利すると思ってましたが、11Rと同じ展開。
ただ、考えると終始山中が手を出し、モレノがかわしてクリンチという状況ではありました。
結果的に10R以降の山中の勝利への執念がモレノの技巧を上回ったということなんでしょう。
微妙な結果ではありますが、2対1の判定で山中慎介9度目の防衛成功は見事であります。
ここで負けてはそれこそ1から出直しでしたし、引き分けでもやや停滞してしまう所でした。
たとえ僅差でもアンセルモ・モレノに勝ったことで、いよいよ山中が望む最高の相手と戦う。
ラスベガス進出へ大きく前進したことは間違いありません。
山中慎介26戦24勝(17KO)2分け
アンセルモ・モレノ40戦35勝(12KO)4敗1分け