3年間ひたすらノンタイトルを戦い世界戦を待った長谷川。
ついに実現したIBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチ。
長谷川好調の報道もあり、3階級制覇への期待が膨らんだ。
皆さんご存知のように長谷川は相手の攻撃を巧みにかわし、スピード豊かな連続パンチと相手の一瞬の動きに合わせて放つ必殺パンチで絶対王者の位置を築いてきた。
しかしモンティエル戦以降、パンチをもらう場面が目立つようになり、今回のマルチネス戦もまともに打ち合うのではなく、パンチをもらわず足を使いながら打つ事で勝機を見出す・・・はずだった。
しかし、ほとんどそのような試合展開にはならず1Rから互いに好戦的な動きで、2Rはほとんど足を止めての激しい打ち合いとなった。
この打ち合いの中で、マルチネスの重いフックをまともに受けた長谷川はたまらずダウン。
相当なダメージを受けて、見ていられない状態に陥ってしまう。
しかし何とかこのラウンドを持ちこたえ、3Rは逆に長谷川のパンチがマルチネスを捉える。
どんどん前に出てくるマルチネスがたまらず後退してしまう、炎のような長谷川の攻撃だ。
上手く表現出来ないが、今まで見てきた試合では味わったことのない気持ちがあふれ出る。
何という物凄い試合なのか!
これこそボクシングだ。
戦前不利と言われた打ち合いを長谷川自らが仕掛けているように見えた。
その理由は想像するだけだが、試合勘、動体視力、総合的なスピードの衰えを自覚し、かつての戦いが出来なくなった為にあえて打ち合いに持って行った。
あるいは、この試合を最後の試合と位置付け、ボクシングの原点ともいうべき、倒すか倒されるかの面白さ、「どついたるねん」の世界で戦う事を決めていた。
初めから覚悟の戦いだったように思えてならない。
私はこの試合を見ていて、途中長谷川の勝つ目がどんどん少なくなってくるのに耐えられなくなっていた。
あかん、見てられへん!
そんな思いに襲われた。
そこで大きなタブーを侵す決心をした。
ライブ中継でない事がわかったので、5R終了後パソコンで結果を見てしまったのだ。
そこで7Rに長谷川のTKO負けを知る。
これで覚悟を決めて長谷川最後のファイト(になるだろうと思い)をこの目に焼き付ける事にしたのだ。
残念ながらマルチネスの強打に屈した長谷川だが、自分の現在の力を確認する事が出来ただろう。
試合後の表情は打たれて腫れあがった顔の中にも爽やかさが感じられた。
応援していた奥様も最後までしっかりと長谷川の試合ぶりを観戦し、失意の涙ではなく、やりきった夫への賞賛の表情が見てとれた。
おそらく長谷川はこれでリングを去るだろう。
記憶にも記録にも残る名選手として長谷川穂積の名前はボクシング史に永遠に刻まれる。
私の記憶にもウィラポン戦以降の長谷川穂積の試合ぶりは鮮明に残っている。
忘れる事はない。
長谷川穂積 38戦33勝(15KO)5敗
キコ・マルチネス 35銭31勝(23KO)4敗