2012年10月31日日本シリーズ第4戦9回表ワンアウト1,2塁マウンドは武田久。
バッターボックスに立った小笠原はこのチャンスに三塁ファールフライ。
カメラは悔しさをにじませる小笠原を追った。
対照的に無表情に近い原監督。
ベンチ内に下がった小笠原の表情を見た時、私は小笠原辞める気だ・・・と思った。
ヤングジェネレーション宮国と中村の投げ合いの中で、球界を支えてきたガッツの寂しい結果。
これが現実なのか。
この日の悔しいサヨナラ負けよりも小笠原が結果を出せなかった事の方が私にはショックだった。
あれから3か月、小笠原は今シーズン復活に向けて調整を続けている。
3憶6千万円の年俸ダウン。
小笠原は全てを受け入れて契約を更改した。
「契約してもらえるだけでありがたい」
偽らざる気持ちであったろう。
キャンプも2軍スタート。
「キャンプが全てではない、あまり気にしていない」
置かれている状況は確かに厳しい。
39歳、昨年は故障が重なり僅か34試合しか出場出来なかった。
いったいどこで歯車が狂ってしまったのだろうか。
それは突然やってきた。
2010年、打率.308本塁打34本打点90
2011年、打率.242本塁打5打点20
誰だってある年齢を境にガタっと成績が落ちる事は必然だ。
しかしこの落ち方は明らかに異常だった。
そう、この年に大きな変化はひとつある。
飛ばないボールだ。
いわゆる一つのエポックメイキングですね。
3割バッターがいなくなる。
投手優位への180度変換の年だ。
もしかしたら球界一飛ばないボールの影響を受けたバッター。
それが小笠原ではなかったか。
何がそうさせたのかわからない。
本人が気付かない内に飛ばないボールへの意識が過ぎて、
フルスイングの軌跡に微妙なズレが生じたのかもしれない。
小さなほころびがどんどんと広がり修正不能な状態に陥ってしまった。
それが1年での大きな落差となって数字に表れた。
あくまで推測だが・・・。
「もうやるだけ。一つ一つしっかりとやっていければ」
今年だめなら後がない事は本人が一番よくわかっている。
王や松井のような潔い引き方も一つの美学だが、小笠原の生き方もまた美学だ。
幸いと言うか、ファーストは他の内野と違ってほとんど固定されていない。
道のりは険しいと言わざるを得ないが、あのフルスイングを、チャンスに強いあの小笠原をもう一度見たい。
通算打率.311。
まぎれもなく超一流の数字だ。
「毎年、ゼロから。しっかり1年間戦える体に鍛えるのが第一だと思う」
必要以上に気負う事なく粛々と復活に向けて歩みを続ける。
しかし内心はギラギラと燃えているに違いない。
静かなる男のワルツ。
あのフルスイングが甦る時、ジャイアンツの一塁は本当の主を迎える。
その時を待っているぞ。