サム・グッドマンの負傷により二転三転した今回の防衛戦。
今日試合が出来たのはある意味奇跡的ではあった。
しかし、それは井上に二重三重の苦しみをもたらしていた。
試合後のインタビューを聞いて、大橋会長のご苦労も超大変だったようだが。
一度仕上げた身体を、延期により改めて調整しなければならなかったこと。
何より相手選手が僅か2週間前にキム・イェジュン選手に変更になったこと。
たった2週間では相手選手の分析はほとんど出来ない。
キム選手はよく試合を受けてくれたが、逆にこんなチャンス受けない方がおかしい。
これで勝てば正にシンデレラストーリーだ。
実際キムはほぼ完ぺきに仕上げていた。
勝つつもりで来たというのは噓偽りない言葉だっただろう。
しかし、井上はパウンドフォーパウンドでクロフォード、ウシクと、常に上位を形成するモンスター。
あまりにも相手が悪かった。
日本人キラー、過去にダウンしたことがなく、当然KO負けは一度もない。
今まで同様のフレーズを持つボクサーが何人井上の前に屈したことか。
いつもとは違う独特の緊張感の中、試合が始まる。
1Rを井上は、完全にキムの情報収集に費やした。
やはり戦前の分析がほとんど出来ていなかったということだろう。
いつも以上に慎重な立ち上がり。
2Rに入り井上はプレッシャーを強める。
キムにパンチを上下に繰り出すが、キムもひるまず前に出る。
残り30秒でキムが右ジャブから左ストレートを井上に着弾させ会場がどよめく。
これには少々驚いた。
それでも3Rになって井上はさらにキムを追い込んでゆく。
左ジャブから右ストレートをキムに浴びせるが、キムも勇敢にワン・ツー・スリー・フォーとガードの上からだがパンチを繰り出してきて場内がどよめく。
しかしペースは完全に井上のもの。
そして迎えた4R、キムは相変わらず果敢に前に出ようとするが、井上のスピード豊かなパンチがキムの顔面、ボディを的確に捉える。
最後はキムの挑発に乗じて、得意の左ボディ、右の強烈なストレートを放つ。
キムはロープに吹っ飛んで初のダウン。
勝負あったの感。
セコンドからタオルが投げ込まれたが、レフェリーはカウント10。
キムの顔は苦痛に歪み、しばらく立てない。
結局いつものように、井上のモンスターパンチが炸裂して鮮やかなKO勝利。
グッドマンのキャンセルが無ければ、まず実現しなかった今回の試合。
終わってみれば当然の結果だったが、井上には勝ち方も問われた。
変に苦戦すれば何を言われるかわからない。
しかし、文句のつけようがない強い勝ち方。
キムも立派に代役を果した。
試合後リングで悔し涙に暮れたが、その健闘に退場時には会場から惜しみない拍手が送られ、リング上からは井上もインタビューを中断し、拍手でキムを称えた。
注目の井上の次戦だが、リング上でボブ・アラム氏はラスベガス開催を言明。
井上も続けて次回はラスベガスと発言。
いよいよラスベガス再上陸が実現する。
前回とは違い、井上のラスベガス上陸には世界中が注目する。
井上尚弥伝説は新章に入る。
世界Sバンタム級4団体王者 井上尚弥 29戦29勝(26KO)
挑戦者WBO11位 キム・イェジュン 26戦21勝(13KO)3敗