ついに実現したドリームマッチ。
ボクシング世界ミドル級統一戦村田諒太対ゲンナジー・ゴロフキン。
幾多の困難を乗り越えて今日の試合に至ったが、両選手長いブランク。
果たして期待に添える試合になるのか一抹の不安があった。
もっと言えばいくらこの試合が過去最高のビッグマッチと謳われていても、実際の所、両者には明確な実力差があって、ゴロフキンが力の差を見せつけるのではという危惧もあった。
しかしそんなことは全くなかった。
心も身体も戦術も究極に仕上げてきた村田諒太は大きな勝負所だった1ラウンドで確かな手ごたえを掴んだ。
もちろんゴロフキンも十分に片りんを見せたが、それでも村田の出来栄えは期待を十分持たせてもらえる立ち上がりだった。
1ラウンド終了後コーナーに戻った村田は幸せそうに笑っていた。
ゴロフキンと戦っていることへの幸福感と、やれる!と思った充実感が村田を笑顔にさせたに違いない。
村田の左ボディと右のストレートボディが面白いようにゴロフキンに決まる。
明らかに嫌がっているゴロフキン。
ボディを打ったと思ったら顔面にストレート、さらにアッパーなどゴロフキンに対しプレスをかけながら多彩なパンチを繰り出す村田。
過去の試合、ともすれば単調な攻撃になってしまうこともあった村田だが、間違いなく今日の試合が一番攻撃が多彩で、どこにこれだけの成長力があったのかと驚く。
試合後のジャッジでは村田が取ったラウンドは各ジャッジ2ラウンドか3ラウンド程度だったが、そんな数字上のデータだけでは今日の試合は語れない。
間違いなくゴロフキンは序盤苦戦を強いられていたし、村田が勝つのではと思う瞬間は幾度もあったのだ。
潮目が変わったのは5ラウンド中盤。
それまではゴングが鳴った瞬間ゴロフキンが村田に先制攻撃を仕掛けていたが、5ラウンド中盤から中間距離からでもパンチが当たると自信を持ったゴロフキンが6ラウンドの頭は攻撃にいかなかった。
ここで解説の長谷川穂積氏がすかさず、ゴロフキンは少し離れた距離からもパンチが当たることがわかったので、戦い方を変えてきたと指摘。
ゴロフキンは長谷川氏の指摘通り、このラウンドから明らかに戦い方を変えてきた。
長谷川氏の解説の的確さには毎回驚かされる。
このラウンドから村田のボディ攻撃が明らかに減った。
ゴロフキンの手数が増え強弱をつけて村田の顔面をパンチが襲う。
徐々にスタミナを削り取られる村田。
逆に前半あれだけ辛そうだったゴロフキンは完全によみがえって動きが良くなった。
時折魂の反撃を見せる村田だったが、9回ゴロフキンのパンチにフラッとして一瞬ゴロフキンに背中を見せるような形で膝からスローモーションのように崩れる。
その瞬間村田人生からタオルが投げ込まれる。
村田諒太人生最大の大勝負が終わった瞬間だった。
9回2分11秒。
私は長い間ボクシングを見てきた中で初めて涙した。
ボクシング人生の全てを掛けて臨んだ村田諒太とそれにベストコンディションで迎え撃ったゲンナジー・ゴロフキン。
勝敗を超えた感動が確かにそこにはあった。
月並な言葉で恐縮だが、村田とゴロフキン両選手にはただただ感動をありがとう。
心の底からこの言葉を送りたい。
統一王者 ゲンナジー・ゴロフキン 44戦42勝(37KO)1敗1分
前王者 村田諒太 18戦16勝(13KO)3敗